アスラン少年の苦労日記 Diary log:03 Autumn 6





「お疲れ様」
「カガリもお疲れ。衣装脱いだんだね」
「アスランだって脱いでいるじゃないか。あのままだ片付けができないだろう」
「まだ写真を撮ってない」
「……汗で崩れた厚化粧の写真なんてわたしはいらない。ジュリが後日、劇のメンバーでまたちゃんと衣装を着て写真を撮ろうと言っていたからそれでいいじゃないか」
 日が西に傾き、細長い影を描く。
 無事に文化祭一日目を終え、一般客が帰った後の校内は先ほどまでとは打って変わってがらんとしている。
 すれ違い際に劇の感想を述べていく人にお礼をいいながら、アスランとカガリは肩を並べ、劇に使用した特殊効果道具(白煙発生装置)を片付けに行くために渡り廊下を歩いていた。
「ザラ、嬢ちゃん」
 声を掛けられ振り返るとシガレットを口にくわえ上下させる男がいた。校内は禁煙である。煙が出ていないところを見るとお菓子だろう。けれども、食べ歩きとはマナーがなっていない。
「フラガ先生」
 産休中の養護教諭マリューの旦那であり、アスランたちが小学生時代のクラス担任でもある。
「来られていたんですか?」
「マリューに頼まれてな。あいつは子どもを連れているし、俺も最後のほうだけしか観れなかったが  観たぞ、劇。いやー、進歩したなザラ。小六の劇の棒読み王子が」
「過去のことは忘れてください」
「おっさん、マリュー先生は?」
「おっさん言うな。マリューならバジルールと向こうで話をしているぞ」
「だから逃げ出してきたのですね」
「……そうとも言う」
「赤ちゃんは元気?」
「おう、元気。元気。また遊びに来いよ。マリューも喜ぶ」
「うん。また遊びに行かせてもらうぞ」
「では、先生。俺たち荷物を持っていかないと行けないので」
「いや、俺も呼び止めて悪かったな」
「失礼します」
 アスランは礼をし、カガリも手を振る。
「マリュー先生によろしくー」
 
 フラガと別れ、辿り着いた化学室の扉を開けると、
「さすが我が息子。格好よかったわよ」
 出迎えたのは満面の笑みを浮かべ、数ヶ月振りに会う母  レノアだった。
 日焼けをしているが代わり映えはない。
「か、母さん?!」
「おばさま?」
「カガリちゃんもお久しぶり」
 レノアは二人の手をとると抱きしめた。
「昔は棒読みの台詞しかできなかったあなたが……。大きくなったのね」
「どうして母さんがここにいるのですか」
「あら、居たらだめなの。お母さん淋しいわ」
「そういう事ではありません。タッシルで砂漠緑化に参加していたのでは?」
「一時帰国したのよ。お父さんも一緒よ」
 ほら、と指差した先には、バルトフェルド特性コーヒーの入ったビーカーを片手に、彼とコーヒー話に花咲かせる父パトリックの姿があった。
「ミリィから今日、アスランの学校で文化祭があると連絡を貰ったのよ。最近、わたしもパトリックも家に帰ってなかったでしょう。だからせっかくの機会だからと思って帰ってきたの」
「ミリアリア」
「ばつが悪いからってわたしに振らないの」
 近くの机でステラと一緒に模擬店で買ってきたのだろう焼きソバを食べていたミリアリアが顔を上げる。
「文化祭の日程を伝えたのは、姉さんへの定期連絡のついで」
「アスラン、あなた、ミリィに劇へ出ることを伝えてなかったでしょう。ミリィがバルトフェルド先生から聞いてメールをくれて、わたしたち急いでやって来たのよ」
 アスランがミリアリアを見やると、彼女は両手を掬い上げ、
「妹が姉に敵うと思った? 甥っ子」
「すみせんでした」
 言い切った。
「ザラさん、報道部が今日の劇を撮っていますので、出来上がりましたら差し上げますよ」
「まあ、ご丁寧にありがとうございます」
「アスラン」
「父さん」
 いつのまにか父が隣にいた。母を見たときも思ったそれ以上に父は日に焼けて真っ黒だ。
「前、見たときよりもずっとよかったぞ」
 父が前回こういった行事に来たのは、小学六年生のとき。
「……ありがとうございます」
 けれども、昔のことは忘れてください、とアスランは言えなかった。

「おねえちゃん、焼きソバたべる?」
 半分こ、とステラはお皿の中で半分にわけた一山をさす。
「食べる。お腹ペコペコだ」
「今食べたら夕飯が食べられなくなる  とわかっていても食べちゃうのよね。カガリさんもお疲れさま。どうしてカガリさんも出るって教えてくれなかったの? ステラちゃんと一緒にまだかな、まだかなって観ていたのよ」
 ねー、とミリアリアとステラが顔を見合わせ、声を合わせる。
「いや、わたしのは端役だし」
「あれは十分キーパーソンよ」
「そうかな」
「おにいちゃんはおうじさまで、お姉ちゃんがおひめさまなの」
   と、校舎の向こうのほうから慌しい足音とそれを注意するバジルールの声が響き渡る。
「ヤマト! 廊下を走るなと言っているだろう!!」
「先生、ごめんなさい!」
 バタバタ  
 ガラリ。
 勢いよく化学室の扉が開かれる。
「間に合った!?」
 汗だくで問うキラに、
「何が?」
 問いが返された。










 我が親愛なるメル友へ。

 二人はそっちに行ったぞ。あとはヨロシク!










 Re; 我が親愛なるメル友へ。

  え? 本当ですか!? 僕、まだ体育館内にいるんですけれど。









book / 2008.08.16
web / 2024.11.11