鍵を持ちし者 4





   《扉の番人》マルキオ導師が死去すると同時に《扉》は閉ざされ館は霧の中に飲まれた。以後、館の姿を見たものはいない。
しかし、その幻とも言われてきた館を見つけ出した者がいる。
 名をアスラン。
 彼は閉ざされの森に隠棲する《統治者》の御子であり次代の《統治者》あった。
 なぜ、彼が館へ行くことが出来たのかは解からない。今をもっても彼はこの事を語らないからだ。
 けれども、マルキオ導師の死からおよそ五百年、次なる《扉の番人》がその任に就いたのである。
 《扉》の鍵ともいわれる番人は、その存在により《扉》を作り出しているともいわれていた。そして不在だった番人の登場によりすべての《扉》は可視化し固定された。 これにより、我々は番人の館を介して、今までは考えられないほど簡単に境界を抜けることができるようになったのである。




(中略)




 筆者は番人の館は《扉の番人》によって姿を変えているのではないかと考える。なぜならば当代の番人が住まう館は、番人となる前から住まう離宮そのものだからだ。
 アスランが《扉の番人》となった瞬間、館にも変化が訪れた。筆者が気づいたのはしばらく経ってからとなるが、閉ざされの森に足を踏み入れることができなくなったのである。どのような力が働いているのかわからないが森へ入ることはできず、また、森から出ることも叶わなくなった。
 過去の番人について残された書の中で館に関しての記述はほとんどない。
 けれども現在の館は前任者のものとは形が違うことはたしかだ。それは形だけでなく、館の建つ場そのものが異なっているのではないだろうか。
 館があるのは境界だ。この場所は他の世界の影響を受けやすい。
 朱と白の双の月。三十日に一度昇る太陽。晴れることのない霧。
 それは番人の  筆者にとっても故郷と呼ぶ世界に似ていた。いや、同じといって良いだろう。




《扉の番人》にして《統治者》アスラン付き
侍従長イザーク卿著『記録』より









book / 2011.08.21
web / 2024.06.07