境界の守護者 1





 五日に一度、郵便物が届けられる。それ故か、一度に届けられる量は多い。

  嫌な感じがする」

 届いたばかりの郵便物を選別している手を止め、彼は一通の封書を取り出した。  ありきたりな白色の封書。しかし、どこか癖のある字でこの館の主の名を正確に記してある。
 それは、あの日より秘された名  
 主が意図して使わないようにしていることもあり、表立ってその名を使うものはまずいない。館に届けられる主宛ての郵便物には、肩書きと通り名が添えられる。そんな中で、その名を書き記し送る者は五指にも満たなかった。果たして、手紙を引っくり返すと、獅子の横顔をモチーフにした紋章が封蝋に押されていた。
 これがただの獅子ならば問題はない。けれども封蝋の刻印は  剣を食む獅子。

「やはり……」

 その印章を使うことが出来る者はただ一人。
 感は外れていなかった。

「何もなければいいが」

 剣を食む獅子は、彼にとって厄介なことしか運んでこない。いや、ひとつだけ違うことがあったが、他は覚えにない。
 彼は残りの郵便物を手際よく仕分けを終えると、件の封書とともにトレーに載せた。
 この封書が面倒ごとの引き金にならないことを願いながら、普段よりも荒々しい足音は執務室へ通ずる廊下に敷かれた絨毯に消えていく。
 霧が漂う湖を見下ろす窓を正面に据えた執務室の壁には書棚が一面を覆っている。デスクに向かい羊皮紙に羽ペンを走らせる主に彼はトレーを差し出した。

「旦那様、彼の方より封書が届いております」

 彼の言葉に主は怪訝そうに羽ペンをペーパーナイフに換え、一番上に置かれた封書を手に取るとその切っ先を当てた。
 静かな部屋に紙を裁つ音が響く。
 封書の中に入っていたのは、一枚のカード。
 カードを一瞥した主から、もとよりなかった表情が消えた。
 かくして、その時が来たのは主が机上にカードを置くと同時だった。









book / 2008.08.24
web / 2024.05.30