境界の守護者 4





 トントン。
 トントントン。
 何度ノックをしても棺の中の人物はうんともすんとも言わない。
 なんだか彼の名前を呼ぶことも癪になってくる。いつもの気の聡さはどこへいったのだろうか。

「アスラン、起きろ  !!」

 カガリは棺を見据えると一思いに蓋を剥ぎ取る。
 棺の中で眠っているのは目鼻立ちの整った顔の濃紺色の髪を持った男だった。
 眉間にしわを寄せ、苦渋の表情を浮かべながら眠りについている。黒一色の服をまとっているためか、妙に肌の白さが浮き出る。
(男の癖に肌が白いなんて納得できない)
 なんだかお腹の底に溜まっていたどうでもいいものまでが溢れてきそうだ。
 ぽかぽかとカガリは彼の胸を叩く。苦しかったってしるものか。起きてくれないアスランがわるいんだ。
「お姫様じゃないんだからキスをしなくても起きろよ、バカ……」
 やっと帰ってきたのに。
 だいたいアスランもアスランだが、彼が不貞寝をする原因となった手紙を送ったキラにも腹が立ってくる。
 頬をしずくが伝う。
 琥珀色の瞳に溢れる涙。
 自分はいつからこんなに涙もろくなったのだろうか。
 自分はいつからこんなにわがままなことを思うようになってしまったのだろうか。
 全てはアスランに出会ったからだ。
 彼と出会ったことで世界は変わった。
 ぽたり、と一滴がアスランの頬に落ちた。それは甘露の雫となりて口元へ伝いゆく。
 ふいに頬に冷たいものが当たる。
 ひんやりとした、でも温かい手。
 涙に濡れる顔をあげると翡翠の瞳とかち合う。
 触れるようなキス。
 手を引かれ棺に入るような形で抱きしめられた。
 懐かしく安心するにおいに包まれる。
 それまで館を侵食していた重く暗い彼の力が引いていくのが感じられる。
 言いたいことがたくさんあるけれど、でも、帰ってきたら彼に伝えようと思った言葉。
「帰りました、アスラン」









book / 2008.08.24
web / 2024.05.30