Promettre son amour 4





On ne fait pas d’omelette sans casser des œufs.
    成功には多少の犠牲が必要である





 彼女が初めて作った料理は、正直なところ食べられたものではなかった。でも、それは最初の頃だけ。今の彼女は、そのような料理を作っていたとは思えないほど腕を上げている。

『キラにお食べになっていただく料理はございません』

 あの後、身もふたもない言葉を残して、歌姫はさっさと家のなかへ帰ってしまった。

『わたしくの作る料理は食べられない。そのようなことをお言いになるのでしたら、明日の朝食はキラが作ってくださいな』

 という言葉を残して  


***


 朝ぼらけ。
東の空に見事なグラデーションが広がっている。紫雲に伸びる朱色の光。夕暮れとは違う、空の移り変わりを眺めながら、アスランは小さく伸びをした。
 鳥の鳴き声がいっそうの清々しさを感じさせる。
 隣のベッドを見やれば、彼女は幼子のように身体をまるめて眠っている。その頬に軽く口付けると、アスランは衣服を整え部屋を後にした。
 軍人としての習慣か。気づかないうちに身につけてしまった固定観念はそうそう消え去るものではない。
早朝ということも相まって、足音を殺し廊下を歩いていく。静まり返った家の中。皆、夢の中にいるのだろう。それを羨ましいと思いつつも、アスランは目的の部屋にたどり着いた。
 時間はぴったり。
 扉の向こう側からは、物音一つ聞こえない。
 トントン。
 扉を小さくノックをする。しかし、返ってくるのは無音の静寂ばかり。
   起きているわけないか。
 幼年学校に通っていた頃、キラの生活サイクルは九時就寝、六時半起床だった。たっぷり睡眠をとっているにもかかわらず、いつもカリダさんに叩き起こされていた。成長するにつれキラの夜更かしは増え、比例するように朝寝坊をする回数も増えた。そんな寝惚けたままのキラを引きずって学校に行ったことは数知れず。
 元来、キラはほっとけばいくらでも寝られる子だ。
 今度は少し強めに扉を叩く。相変わらず返事はない。

「…………」

 起きてから何度目かも知れぬため息を吐くと、アスランはドアノブに手をかけた。
 カチャリ。
 軽い音をあげ開いた扉の向こうには、空のベッドがあった。









book / 2005.08.21
web / 2024.05.12