幽霊少女の憂鬱 3  幽霊少女は恋愛相談を受ける





 草木も眠る  にはまだ早い深夜零時。
 時間感覚も睡眠をする必要のないマユにとっては宵の口である。しかし、静けさが深まる時間帯にその声は室内に響いていた。

「マユちゃん、おれはどうしたらいいんだろう」

 幽霊となって以来テレビとお友達。見目麗しい男ばかりを見てきたマユでも整っていると思う男が一人、誰もいない壁に向かって問いかけている。
 男の名はアスラン。今をときめく人気ニュースキャスターである、らしい。
 この姿を見て誰がそう思うだろうか。いや、思わないだろう。

「カガリさんが、カガリがさん  !!」

 ぶつぶつとすでに二十分近くこの調子だ。ときおり、思い出したかのように叫び声をあげる。無駄に大きな家で隣家とは離れているが近所迷惑極まりない。

「あー、もう! いつもいつも、うるさいな! だいたい、お兄ちゃんはあたしの姿が見えない、気づかない、声も聞こえないのに! なんであんたはあたしのことがわかるのよ!!」

 地団駄を踏みいらいらと頭をかきみだしたマユは空に浮いていた。いや、それだけではない。マユの姿は透けていて後ろの壁に貼るポスターの絵柄がはっきりと見えている。
 幽霊に重さはないし透明度は自由自在だ。

「あの選手、カガリさんに気があるって」

「あのね、それは相手がであって、そのカガリさんも気があるってわけじゃないでしょうが!」

 カガリとはアスランの同期入社の同僚で、スポーツ番組を担当しているアナウンサーであり、この男の片恋の相手。アスランは三日に一度はカガリについて語るので彼女のプロフィールについては無駄に詳しくなってしまった。

「マユちゃん」

 マユのつんけんとした物言いにアスランはぐず、と鼻をすする。
 格好いい男は何をしても様になる……わけでもなく、マユは無言で傍らのティッシュ箱を指差した。それをアスランはいそいそと抱え込み、大きな音をたてて鼻をかむ。
 百年の恋も一瞬で冷める光景だ。

「そんなのあたしが知るわけないでしょうが! だいたい、小学生に恋愛相談するな!!」

「中学生だろう? マユちゃんは」

 マユの言い分にアスランは目を瞬く。

「それは生きていたらの話だ! あたしの人生は一桁台で儚く散ったの!」

 四捨五入をすれば二桁だが、まだ誕生日が来ていなかったので一桁は嘘ではない。
 ふん、と鼻息荒くマユは、身をひねり回転をする。
 アスランの頭上を越えると反対側へ着地した。

「あたしからのアドバイスはひとつ」

 腰に手を当て、アスランを見下ろしながらマユは言った。
「あんたなんか、さっさと告白をして振られちゃえばいいのよ」

「な    !!」

「最初からこうすれば良かった」

 やれやれ、とマユが凝った肩をほぐそうと首を回そうとしたら、ノックの音とともに部屋の扉が開く。隙間からつんつんとした黒髪が顔をのぞかせた。

「お兄ちゃん!!」

 その姿を認めるとマユは咄嗟にベッドの陰へ隠れる。この行動に意味はない。意味はないけれど、勝手に動いてしまうのだから仕方ない。

「アスラン、寝たいから静か……何してんの?」

 兄は真っ暗な部屋の片隅で固まっているアスランの姿を見たのだろう。









book / 2011.12.30
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